外出自粛をはじめ閉塞感のある状況が続いているせいかもしれません。行動の制限が心や精神に影響を与えているのか?と思える現象として「自分劇場」にハマってしまっている方が少なくありません。
平たく言えば、思い込んだシナリオが現実味を帯びて(とかく苦しい)ドラマの主人公になっている状態です。ご自身では劇場で演じているとは思っていませんし、舞台から自分では降板できず、なんとか舞台の上でストーリーに救いを求めています。客観的な目という意味での観客目線で眺めると、それは舞台上の本人の少々偏ったか考えや解釈だと感じられます。
舞台の上は深刻であり、自由がききません。この先どうなるのか、どうすべきかもよくわからず、いつ終わるのかも知れません。
誰でも心理的にそうなることはあり得ます。そして、自分劇場に登壇していることに気づいていないときが、ちょっと困ります(実際ほとんどなのですが)。このような状況になるきっかけは些細なことが多く、概ね、自分にとって不利や不満な状態が慢性的に続き、しかもそれに耐え続けているときに起こります。いつの間にか、劇場でお話が始まっていた、という格好です。
舞台にあがってしまうと、ご本人が主役です。たとえ、相手や周りから無下に扱われたり、弱者にされても主役です。主役はその苦境から解放されるために頑張ります。戦いや復讐の展開も試みるでしょう。でも、なかなか思うようにいかないことが多いようです。
自分劇場の舞台にいる=自分の心の中 であることに気づくまでは随分長くかかる場合があります。ずっとドラマや演者を終えられないことも珍しくありません。舞台のお話を転々とする人は、むしろ多いのかもしれません。
隠喩でシュールにまとめてみましたが、ようは自分の心の中に、相手や状況を取り込んでしまっている状況を「自分劇場」と呼んでいます。上手に出来すぎた思い込みで、見映えもするので、本当に気付きにくいと思います。
人間関係、愛情問題、感情や情のもつれ、などに限らず、職場や仕事など一見客観的なシーンでも、自分劇場は発生します。もしも、自分劇場になっていたら、こんな傾向にありますので、チェックしてみるとよいでしょう。
① 状況的に自分だけが辛い立場、状況に感じている。
② 特に「相手役」や周りの人たちが、自分に対して不利に立ち振る舞う。ときにはいじめ、攻撃、邪魔を受けるなど。
③ 自分の本心や意見を言えない、伝えても相手や周りに理解されない。無視される。
自分劇場の渦中にいるときは、ご本人は本当に辛いのですが、その時間やエネルギーが増すほどに、②や③は一層現実味があります。物理的に傷を負うことさえあるでしょう。これも、舞台から抜けてみれば、まるで役者さんが演出上の傷を受けたような格好なのですが。
この自分劇場に知らぬまに入りやすい人の傾向として、3つの特徴を挙げたいと思います。
① 相手や周りに対して、良かれと思って我慢したり、気遣いをしている。気遣いのために自分の本心を伝えてはいけない、などと我慢している。
② 素のままの自分では、周りに受け入れられないという考えから、いつも本心になんらかのカモフラージュをしている。
③ 物理的に動くこと(行動、運動、移動)よりも、心の中で考えたり、意識の中で想像や妄想や仮想(もしも)と費やす時間やエネルギーが多い。
思いの力、想像能力、イマジネーションは、それがリアルを作り出す強いパワーを持っています。「自分にとっての現実」を仕立てていきます。
誰しも、何度も気付きや状況を変えるきっかけは起こってくれています。なるべく早く気づいたほうが、ダメージは軽度です。
自分劇場の初期はエネルギー現象で比較的容易にストーリーを変えられますし、心理的なところなら学びもあるでしょう。物質的な段階にくると、自分劇場の被害者が加害者的な役割にすり替わることもあります。
思い込みという自分劇場にいることに気づく、つまり、からくりがわかると、それまでの状況の実態が認識できますので、本質(エネルギーレベル)に立ち戻り、現実の状況を変更しやすくなります。エネルギーはニュートラル(中立的)ですから、カタチを帯びたものでも、不自然な意味づけを取り、本来の自然な状態に戻して整えはじめることができます。
職場の人間関係が理不尽に働き、仕事そのものにも自信が失せてしまったKさん。新しい異動先の候補にも自信がもてず、疑い深くさえなりはじめていました。
Kさん「人事の担当は知り合いでもあるので、あとでかえって嫌なことにならないか心配です」
長い間、ご自分の心の中でずっと悩んでいたために、わるいことが起こるのではないかという筋書きが先行しやすいようです。こうなると自分の思いや意志を通す以前に、周りに起こることに贖えないようなマインドになっていきます。
ほかの人間関係についても懐疑的になり、その不安や恐れから、相手の状況や今後のことを確認したくリーディング(透視)で整理したいという思いのようでした。
特に仕事の人間関係でのご相談は、不安や疑心暗鬼からリーディングを・・・ということがあります。しかし、そうなってしまう心境を深読みしてみると、根底には思い込みや、過去のドラマを引きずって将来を案じていることが多いものです。
今週は離婚についてご相談が多いかったのですが、急に思い立ったようなものではなく、何年来か我慢し、パートナーに働きかけてきた結果、やはり離婚しかない!という運びです。
その多くが、相手(夫)に伝えても伝わっていない、変わってくれない、反論・反撃される、といった具合です。またお子さんたちやほかに守るべきものがあるために、言葉や本心を飲み込んできているものです。
Aさん「これまでやってきて、もう限界だと思い、離婚してもいいものか考えをまとめてきている」とのこと。
拝見してみますと、非常に家でも外でも、相手や状況を思い計り、本心や本音をおっしゃったことがないようです。
Aさん「はい、そうです。そのまま言ったらまずいので、相手にわかるように伝えているんですが、全然。むしろ反撃してキツく怒鳴られたり!」と。
この良かれと思って、本心を加工してしまうと、相手の方は(家族や他人に限らず)本心はわかりません。そして、Aさん自身が長らく習慣的に自分は配慮して表現するタイプのため、相手の本心がそのまま、しかも直球で自分と異なるパターンで飛んでくると、大変な衝撃を受けてしまうわけです。
まずは、相手(夫)や相手とのことをどうのと変えるまえに、関心・支点をAさん自身に戻すことです。まっすぎに軸をただし、ご自分の本心、正直、自然体のままでいることを努めていくと、しばらく時間は要しますが、徐々に、状況が自分の本意に沿ったものに動いていくでしょう。
文字通り、演じてしまっていたのですから、大変だったと推測します。
人生においてあまりに苦しい状態、不公平、理不尽な状態にあるときは、偏ったドラマの中にいるのではないかと、良い意味で好奇心をもって疑い、意識を広げてみると、自分の居所が舞台の上だったと見えてくるかもしれません。
自分劇場で演じていることに気づき、ドラマから降りる方法として(時には、降りたくないとさえ思います)、
① ドラマの途中で、インターミッション(舞台の幕間に入る休憩時間)を入れる。つまり今起こっている状況に一旦とらわれず、他の活動や状況に身を移す。
② 身体を動かして(エネルギーが動く)目を醒ます。
③ 自分劇場にいない人と話す、交流する。ふだん関わりのない人たちとの時間を増やす。
セラピーにいらっしゃることが③の働きになったクライアントさん方は多いように思います。